記念すべき第一回目の先輩起業家・経営者は、海外渡航時のWi-Fiルーターレンタルサービス・グローバルWiFiでビジネスマンや旅行客から圧倒的な支持を得ている東証一部企業、株式会社ビジョン代表取締役社長 佐野健一氏です。
佐野氏が25歳で起業された当時の顧客・販路開拓についての経験談を伺ってきましたので、お楽しみ下さい。
佐藤:先ず、創業時のサービスと具体的な営業・マーケティングはどんなことをされていたのか教えて頂けますか?
佐野氏:
創業期のサービスは、日本在住の南米人を対象とした国際電話割引サービスの取次ぎです。
当時24歳、4年半勤めた光通信を退職後、縁もゆかりもない富士山の裾野にある静岡県富士宮市で1年弱ほど起業準備をしていました。
起業するに当り、ターゲットや商品を何にするか、そして身を置いている通信業界で自分がやって意味があるものは何かを探していたタイミングで、出稼ぎ労働のため来日している南米人達(ほとんど日系3世)と出会い、彼らが困っていた割高な国際電話料金について話しを聞く中で、ヒントを得ました。
彼らの話しを聞けば聞く程にそこにはニーズがあることと、当時は誰も手掛けていないテレマーケティングの手法での取り組みはチャンスが多いこともあり、十分にビジネスが成り立つと確信していました。
また、彼らは日本語が話せず、日本人コミュニティとのつながりに悩んでいたことや日本人に対して不信感があることも知っていたので、日本人である自分が営業をするよりもターゲット顧客と同じ出身国のスタッフ(例:ターゲット顧客がブラジル人の場合はブラジル人スタッフ、ペルー人の場合はペルー人スタッフ)が営業する方が心を開きやすく、有効なのではと考え、南米人スタッフを採用・教育し、売れる仕組みつくりをしていくことを考えました。
最初の営業やマーケティング手法については、ターゲット顧客の電話番号が記載された電話帳などなかったので、交流のあった南米人のネットワークを活用し、サービスを紹介していきました。
すると瞬く間に、口コミによるバイラル効果で拡散され、1件契約が取れるとそこから10件ほどのご紹介を頂き、先方が在宅している時間帯と曜日に合わせて電話営業をしていきました。
このように拡散されていったのも南米人特有の家族や友達をとても大切にするという文化背景も大きく影響していたと思います。また、土日は南米人の友人知人やスタッフのご自宅でのBBQやホームパーティーに招待して頂いたり、会社主催のサッカー大会を開催したりと地道にサービスの認知活動をしていました。
在籍20名程のスタッフによる電話営業は、ターゲット顧客の在宅率が高い平日夕方18〜22時、土曜日は朝から夜までの時間帯を狙って行っていました。スタッフは日中の工場勤務後に直接出社し勤務をしていたので、私が夕食のまかないの買い出しから、勤務後に各自宅までの送迎を行っていました。自宅まで送り届けたら、会社に戻り、スタッフがローマ字で書いてくれた契約先の住所を日本語に変換、そのデータをコンビニでプリントアウトし、控え作成後に運送会社まで届けに行き、朝5時に帰宅というルーチンを1年程続けていました。一方、国際電話会社との取次ぎにあたってのオペレーションや条件の交渉については、元々、光通信時代に国際電話事業に携わっており、ノウハウを持っていたので、当時3位だった国際電話会社に、南米人を対象にした国際電話割引サービスの提案を持ちかけました。
それから1ヶ月間程ディスカッションを重ねた結果、必要な資料制作などの協力を得たり、私が通信やその分野の仕組みに詳しいこともあり、こちらの要望を十分に取り入れた条件で契約締結させて頂きました。そして、始めた事業は、初年度は売上7700万円、2年目は10億円と伸びていきました。
佐藤:事業計画書の作成有無、起業資金の調達はどうされていましたか?
佐野氏:
事業計画書は、大体を作成していました。また、起業資金は貯金から500万円程度を捻出しました。
国際電話割引サービスは、契約が取れて3ヶ月後に入金されるサイクル、3ヶ月間はスタッフ給与、家賃など全て前払いでしたので、創業時からずっとキャッシュフロー計算表と日売り表はつけていました。キャッシュがなくなったらまずいので、そこが一番怖いし、死なないようにどうやろうかと考え、半年先の財務状況を常にみていましたね。
佐藤:創業時に困った・大変だったエピソードや解決策などはありましたか?
佐野氏:
会計と採用です。
経理がいなかったので、アルバイトの給与や振込の手続きなどが大変でした。また、会計士と顧問契約はしていましたが、領収書の整理もしてくれると思っていたので、決算時に貯めていた領収書の箱をドカンと提出したところ、台帳に貼付作業をする必要があるとのことで、一生懸命に作業完了したら、今度は張るところを間違えていると言われ、一からやり直したこともありました。会計で逆にやっていてよかったことは、キャッシュフロー計算表、日売り表をつけ、毎日確認していたことです。経営者は会社の健康状態(BS:賃借対照表、PL:損益計算表、CF:キャッシュフロー計算表)を感覚値でなく、データとしてきちんと把握していないとリスキーだと思います。早く結果がわかれば、その分早く手が打てるので、先々のことを考えて行動するためには、ここのスピードが大変重要だと思っています。また、採用では、外国人はリファーラル採用で順調に採用出来ましたが、創業の地・富士宮市は工場地帯のため、日本人の営業マンが全く集まりませんでした。ですので、営業マン採用時の唯一の条件として日本語が話せれば良しとし、一人前の営業マンに育てるべく私がしっかりと教育していきました。朝から近所の小学校の校庭で朝礼を行ったりもしましたし、非常に活躍してくれたと思います。
佐藤:これから起業する方、起業初期の方へ向けてのメッセージをお願いします!
佐野氏:
まず、計画を立てることは大事ですが、その通りにはならないことの方が多いと思うので、その通りにならなかった時に、どう軌道修正していくのかが重要だと思います。
もちろん目線は高い方が良いが、現実はそうはならず、あまりにも目標が高過ぎるために失敗の連続となると、自分も仲間も疲弊してしまいます。だからこそ、今の自分達の立ち位置を理解し、軌道修正を繰り返しながら、一歩一歩積み重ねることで、会社の強さが増していくと思います。
そして、時代とともに商品やサービスも変化するので、その変化を楽しめるマインドを持っておいて欲しいと思います。
うまくいかなかった時に、どうやったらうまくいくかを仲間と相談する、顧客に聞くなどを繰り返しやることと、他の誰よりも真剣に事業やサービスに想いがあったり、詳しかったりすると絶対にヒントは見つけられるはずで、真剣だからこそ気づきがあると思います。そこで気づいたことに大きなチャンスがあるので、そこを更に伸ばしていくと別の世界が少しずつ見えてくるはずだと思います。
次に、とにかくお金を無駄使いせず、業績が上がっても派手にならず、経費の使い方にはものすごくシビアになることです。シビアだったからこそ、今の自分があると思っています。倹約的なところと事業に使える時間がすごく重要だと思っていて、よくDNAの回路が変わるぐらいぐらい意識高くやろう!と言っていましたね。創業期は大変なことだらけ、一つずつみんなで成功したことが未来に繋がっていくし、壁が見つかる度にどうやって乗り越えようかという機会があればある程強くなっていきます、諦らめなければ。ただ、単純に諦めなければいいわけではなく、そこに自分じゃなければいけない、諦めたらこの業界が終わるという情熱と高い意識が重要で、それぐらいの意識を持ってやって欲しいなと思います。裏を返せば、そこまできちんとやれれば誰でも成功出来る可能性を高めることが出来ると思います。身を置く業界で圧倒的に一番になるという高い意識が、未来の一番に繋がっていくんじゃないかなと思うし、私自身の体験から学んできたことです。ステージが上がり、組織が大きくなってきても、コアになるところの仕組みは、いつまでたっても進化させ続けていくことが大事なことだと思います。
インタビュー後記
佐野氏のお話からは、創業期から変わらず、真摯に顧客の声に耳を傾け続け、考えられる限りの試行錯誤を尽くし、出来る限りの努力を重ねる姿勢をひしひしと感じましたし、だからこそ、現在の基盤が構築されたのだなと説得力がありました。佐野氏の口癖、DNAの回路を変えるほどに、顧客や業界に尽くしているか?情熱を持ってやれるか?って、とても重要なヒントだと思います。
Tips! 佐野氏が行った営業・マーケティング戦略と具体的な方法
・創業期こそ、競合のいないニッチな分野を狙う
・仕事上のステークホルダー(今回は、顧客と取引先の双方)にとってのメリットを考える
・ターゲット顧客について深く知り、理解した上で、戦略と手法を考える。そのためにも、ターゲット顧客とのタッチポイント・接点を積極的につくる
プロフィール・会社概要
株式会社ビジョン 代表取締役社長 佐野健一
【略歴】
1969年11月 鹿児島県生まれ 1988年3月 私立鹿児島商工高等学校 卒業 1991年2月 株式会社光通信 入社 1995年6月 有限会社ビジョン 設立 1996年4月 株式会社に改組し株式会社ビジョンとする 2015年12月 東京証券取引所マザース市場上場 2016年12月 東京証券取引所第一部へ市場変更
【プロフィール詳細】
1969年鹿児島県生まれ。私立鹿児島商工高等学校を卒業後、1990年株式会社光通信入社、すぐにトップ営業マンになる。
1995年静岡県富士宮市で起業、ビジョン設立。経営理念は『世の中の情報通信産業革命に貢献します』。
電話回線、法人携帯事業、電話加入権、コピー機などの通信インフラディストリビューターとして、WEBマーケティングやCRMの仕組みによるモデルで業界トップクラスの販売実績を誇る。
2012年より海外用モバイルWi-Fiルーターレンタルサービス「グローバルWiFi®」を開始。現在200以上の国と地域で『世界中いつでも・どこでも・安心・安全・快適なモバイルインターネット』環境を提供中。訪日外国人旅行者向けに「NINJA WiFi®」を展開。
また、海外渡航のお役立ちサービスとして、ウェアラブル翻訳機のレンタルサービスや、送迎の予約および送迎サービス「プロドラ(ProDrivers)」を提供。
2015年12月東京証券取引所マザーズ市場へ上場。2016年12月同取引所第一部へ市場変更。
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