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50人未満の小規模事業所にもストレスチェック義務化拡大へ


コワーキングスペースfactoria|小規模事業所にもストレスチェック義務化拡大

2024年10月、厚生労働省は、従業員50人未満の小規模事業所に対し、働く人のストレスチェックを義務づける方針を固めました。

小規模事業所の経営者は、日頃の企業活動について取り組まなければならないことが多過ぎること、また、従業員のメンタルヘルス対策は大事なことはわかっているけど、どう取り組んでいいのかわからないという声が多いのも事実です。


数年後の義務化を見越して、今からできること/やっておいた方が得策なこと、義務化にあたり想定される課題と対策について、factoriaメンバーであり、産業保健師として大企業から小規模事業者までを支援されてこられたCO-WELLアシスト代表・宗像かほりさんにお話を伺いました。



話し手(写真左):

CO-WELLアシスト

代表

宗像かほりさん


聞き手(写真右):

HAM株式会社/factoria運営会社

代表取締役

佐藤仁美


 

企業で働く人の健康を支える「産業保健師」


佐藤:まずは、かほりさんの自己紹介とCO-WELLアシストの紹介をお願いします。


宗像:CO-WELLアシスト代表の宗像かほりと申します。主に、産業保健師として、企業で働く人の健康を支える仕事をしています。産業保健師になった経緯ですが、もともとは看護師として都内の大学病院の小児外科に2年間勤務していました。そこは外科なので手術をして退院していく子たちがほとんどだったので、この子たちが学校へ復帰する時、病気のことを知っている保健室の先生がいたら安心して学校生活が遅れるのではないか?と思い、保健室の先生になろうと東京都立公衆衛生看護専門学校保健学科に進学しました。

そこで、養護教諭の免許と(ついでに)保健師の免許を取得しました。免許は取ったものの教員採用試験に落ちてしまい、社会人経験を積むのも悪くないと考え、学校に求人が来ていた企業の保健師として就職したのが、今の仕事の始まりです。ということで、実は、志高くなろうと思ったわけではないのですが、入社してみたら、仕事自体が楽しかったですし、企業で働く人の健康を支えることが企業を支えていると先輩から教えて頂き、より産業保健師という仕事に魅力を感じるようになりました。


そもそも看護師を目指したきっかけは、高校生の時に父親をクモ膜下出血で亡くしたことでした。そう考えてみると、父のように働く人の健康を守ることはやりたかったことかもしれない、とも思うようになり、この仕事をかれこれ20年以上続けてきました。

これまで鉄鋼、情報、電気、製薬業界の4社にて産業保健師として従事し、2024年7月にCO-WELLアシストを起業しました。


起業のきっかけは、産業保健サービスが行き届いていない中小企業を支援したいと思ったことです。

経験した4社とも規模の大きい会社で、小さくても800人〜大きいところでは2万5千人の会社でした。そもそも産業保健師を雇用している企業は大企業です。

大企業では当たり前のことが中小企業では当たり前ではないことがあります。既に健康管理体制が整っているところを更に整えるのも良いけれど、中小企業の健康管理体制を整え、支援し、日本の企業全体の健康に関する当たり前の基準を高めていきたいと思うようになりました。

例えば、健康診断の機会がなく、高血圧や糖尿病が放置されていたり有害物質にさらされた労働環境で働いていたりと、そうしたところをより良くしていくお手伝いができればと思い、起業しました。


佐藤:確かに、中小企業では産業保健師という職種自体にまだまだ接点がないのかなと思いますが、実際に、起業されてから中小企業のクライアントもいらっしゃいますか。


宗像:現在は、20人規模の中小企業から、全国で800人規模の製薬会社、全国で800人規模のサービス会社などを支援しています。スポットで、地方に本社がある会社の東京支社での支援を行う機会もいただきました。



職場におけるメンタルヘルス対策の一つ、ストレスチェック制度


佐藤:健康管理体制や労働環境が整っていない中小企業を産業保健師として整えていきたいとのお話を伺いましたが、厚労省により「50人未満の小規模事業所にもストレスチェック義務化拡大される」という方針が固まったとのニュースが出ました。ストレスチェックについて簡単に教えて頂けますでしょうか。


宗像:ストレスチェックの目的は、①メンタルヘルス不調を未然に予防すること ②ストレスへの気づきを促すこと ③ストレスの原因となる職場環境があれば改善につなげること です。

鬱病など、病気の人をを炙り出すためのものと思われがちですが、そうではありません。

従業員個人にとっては、ストレスに気付く機会として有効だと思います。高ストレス者に該当した=病気、ということではなく、ストレスが高い状態ということです。そこで気づいて、仕事の仕方を変えたり、休息の時間を確保したり、という行動につながるとメンタル不調の予防になります。

会社にとって大事なのは、従業員のストレス状態を知ることや、集団分析結果を職場環境に活かすことです。ストレスの質や量の負荷、職場の支援状況が見えてくるので、その結果を職場環境改善につなげていただけると効果的です。


佐藤:ストレスチェックの項目には規定のものがあるのでしょうか。また、企業規模でチェック項目に違いがあったりなどしますか。


宗像:厚生労働省が推奨しているのは、職業性ストレス簡易調査票(57項目)ですが、その他、簡易版の23項目、仕事に対する精神的負担や役割葛藤等23項目を追加した80項目が使われることも多いです。

さらに項目数の多い120項目もありますが、義務としてのストレスチェックではあまり使われません。大企業も中小企業も内容は同じです。



小規模事業所にもストレスチェック義務化拡大とその背景


佐藤:今後、小規模事業者にもストレスチェックが義務化される背景について、かほりさんの見解を教えていただけますか。


宗像:職場でのストレスを原因とする精神的な苦痛から、労災認定を受けた労働者が増えたことがあります。働く人の半数以上が仕事に強いストレスを感じているという調査結果もあります。

なので、職場でのメンタルヘルス対策を進める必要があるわけですが、50人以上の事業所の94.4%がメンタルヘルス対策に取り組んでいる一方で、10~29人規模の事業所では49.6%との取り組み率となっています。取り組んでいない理由の多くは、取り組み方がわからない、専門スタッフがいない、ということでした。

そこで、ストレスチェック制度を活用したらいいのではないか、と考えているのだろうと思っています。



今後の課題と対応


佐藤:小規模事業所の職場におけるメンタルヘルス対策もまだまだ整っていない中で、小規模事業者にもストレスチェックが義務化された際の課題や対策はどうでしょうか。


宗像:得られた結果をどう活かすのか、情報の扱い方はどうするか、といったことを決めて、導入することが大事かなと思います。

従業員個人がストレスに気付くという点では役に立つのかもしれないですが、ではそれを会社としてどう活かしていくのかという際に、その機微な個人情報を扱える実施者(産業医、保健師、一定の教育を受けた看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師)が小規模事業者だと社内にいないと思うんですね。

そういった場合は、外部業者に実施者としての業務や分析を依頼することになると思うんですが、そうなると費用が発生しますよね。費用が発生するとなるとしっかり活用したいですよね。どう活用していくのか。何をどこまで対応するのか。を決めてやる必要があるかなと思います。


佐藤:ストレスチェック実施の目的設定から、結果分析、課題抽出、効果検証までと制度設計をするとなると、なかなか大変そうですね。

なるべく費用負担が掛からずにできたり、小規模事業者でもできるような方法などあるのでしょうか。


宗像:国で無料で提供しているプログラムもありますが、データを扱うことができる実施者が社内にいないと思うので、その辺も含めて代行もしてくれる業者さんに相談するのが早いと思います。

ただ、企業側が何もわからないと外部業者の言われる通りになってしまうので、目的が明確にある中で、良い外部業者とつながったり、無料で活用できるプログラム等をどう活用していくかということが重要じゃないかなと思います。



佐藤:例えば、かほりさんが支援するなら、具体的にどういったことをされますか。


宗像:小規模事業者という前提ですが、ストレスチェックを一回実施し、自社の状態を知るのは良いと思います。

例えば、厚労省の無料サービスを活用し、有資格者である私が報告書を提出、その後、企業の課題を一緒に考えていったり、高ストレスと判定された従業員への個別相談も提案したいですね。

実は、ストレスチェックで従業員に高ストレス判定が出ても、企業に判定結果を伝えるかどうかは従業員本人の意向に委ねられています。企業側からは、高ストレス者の特定ができないようになっています。


例えば、50人未満の企業だとして、その内3人が高ストレス判定が出たことを会社側は知ることができるけれども、高ストレス者が誰だったのか、という特定はできません。

ただ、10人以上での集団分析は可能なので、部署毎に集団分析するといったことは可能ですが、予め決めておくこと、安全衛生委員会・衛生委員会がある事業所では審議しておくことが大事です。

高ストレス者の特定はできないので、企業側からするとそれでは意味がないと思われるかもしれませんが、高ストレス者が誰か?を知るためのストレスチェックではないということはご認識いただきたいと思います。

高ストレス者が企業側に判定結果を伝えてもいいとの意向であれば、企業側と一緒にどう改善していこうかと相談することになります。

このような場合、大事なことは、企業と従業員の信頼感だと思います。信頼感がないと、高ストレスに該当しても絶対に言わないで欲しいという話になります。


ストレスチェックを実施することも大事ですが、普段の関係性づくり、良い職場づくりがより大事かなと思います。

ストレスチェックを実施し、その結果、課題だと思うことに対処し、翌年、同じくストレスチェックを実施し、効果検証していく、そんな提案をしていきたいですね。



管理監督支援をしてもらう外部委託先選定時のポイント


佐藤:そもそものストレスチェックの目的の一つは、職場環境の改善が目的ですよと。そこに対しての課題や対応などの細かな制度設計をつくったり、常にその過程をみていく、管理監督していくとなると、なかなか大変そうですね。


宗像:50人未満の企業にもストレスチェックが義務化されるとなると、担う業者さんも玉石混交になると思います。委託先の選定の際には、より良い企業、効果的な企業を選んで欲しいなと思います。


佐藤:見分けが難しそうですね。どうしたらいいのでしょうか、選定ポイントなどあれば。


宗像:私の場合だと、外部業者の記事を読んだりして、変なことを書いているなと思ったらリストから外したりとかしますが、その変なこと自体がわからないですよね。


佐藤:そうですね。ただ、企業側も勉強会に参加する、資料を読んでみるといったリテラシーを高めることも大事かなと思いました。今回、お話を伺って、大企業だけではなく、小規模事業者も職場環境づくりに取り組む必要性があるなと学びました。


宗像:小規模事業者こそ、従業員一人ひとりを大事にしていかないと人口減のトレンドもあり、労働市場は人手不足ですからね。皆さんが心身ともに元気に働ける職場づくりが今後ますます重要になると思っています。


佐藤:小規模事業者は、企業と従業員との距離感が近いことや制度設計の導入やアップデートも大企業に比べるとやりやすいのかなと。あとは、費用面の問題ですね。


宗像:ストレスチェック導入時は、助成金の活用もあるかなと思います。国が主導するからやるというのではなく、職場のメンタルヘルスを大事にしたいからストレスチェックを導入するという企業メッセージも添えて導入するといいかなと思います。

【参考】001151913.pdf


佐藤:制度設計などまっさらな状態ならば、数年後のストレスチェック義務化を見越して、その時にうまく動けるための制度設計や職場環境の整備に取り組むことが大事ですね。本日はお話を聴かせて頂き有難うございました。


宗像:ストレスチェックは、義務だからやる、というのはもったいないです。。やるなら目的を明確にし、分析・課題抽出後の施策立案・実行・効果検証までの一連の流れを決めた上で、やっていただきたいと思います。ご不明なことなどあれば、お気軽に聞いていただけると幸いです。


 

【お話を伺った専門家・宗像かほりさんのプロフィール】

宗像かほり(むねかたかほり)

保健師・看護師・産業カウンセラー・公認心理師・社会保険労務士

大学病院看護師を経て、企業内保健師として23年勤務。その間、鉄鋼、情報、電機、製薬と4社を経験。2024年7月より中小企業で働く人の心と身体の健康支援を通し、生産性の高い企業、幸せに働く人、幸せな家庭、幸せな地域創造を目指し、CO-WELLアシストを創業。

製薬業では、健康経営優良法人大規模法人認定5年連続認定。

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